化学ⅠB

第1章 物質とその変化

1.1 物質の三態

物質は、一般的に固体液体気体の3つの状態(三態)で存在します。

  • 固体: 固有の形状と体積を持ち、粒子同士が強く結びついています。
  • 液体: 容器の形に合わせて変形し、一定の体積を持ちます。粒子は固体ほどは強く結びついていません。
  • 気体: 容器全体に広がり、形状と体積が容器に依存します。粒子は非常に自由に動き回っています。

これらの状態は、物質を構成する粒子の運動の激しさによって決まります。温度が上がると粒子の運動が激しくなり、状態が変化します。

1.2 物質の構成粒子

すべての物質は、非常に小さな粒子からできています。この粒子を原子と呼びます。原子には、さらに小さな陽子中性子電子から構成されています。

  • 原子: 物質の最小単位
  • 陽子: 正の電荷を持つ粒子
  • 中性子: 電荷を持たない粒子
  • 電子: 負の電荷を持つ粒子

原子同士が結合して分子を形成したり、イオンとなって結合したりすることで、様々な物質が生まれます。

1.3 化学変化と物理変化

物質に変化が起こるとき、化学変化物理変化の2種類に分類されます。

  • 化学変化: 物質の種類が変化する変化。新しい物質が生成される。
    • 例:鉄が錆びる、木が燃える
  • 物理変化: 物質の種類は変わらず、状態や形が変化する。
    • 例:水が蒸発する、氷が溶ける

1.4 化学反応式

化学変化を表すために、化学反応式が用いられます。化学反応式では、反応に関わる物質(反応物)と生成される物質(生成物)を、化学式を用いて表します。

  • 例: 水素と酸素が反応して水が生成される反応 2H₂ + O₂ → 2H₂O この式は、2分子の水素と1分子の酸素が反応して、2分子の水が生成されることを示しています。

ポイント

  • 化学反応式では、質量保存の法則が成り立つため、反応前後の原子の種類と数は一致する。
  • 化学反応式には、係数をつけることで、反応に関わる物質の量的関係を表す。

練習問題

  1. 次の現象は、化学変化か物理変化か。
    • 砂糖が水に溶ける
    • 鉄が錆びる
    • 木が燃える
    • 水が凍る
  2. 次の化学反応式の意味を説明しなさい。 CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O

第2章 物質量と化学反応

2.1 モル

原子や分子は非常に小さいため、個数で数えるのは大変です。そこで、化学ではモルという単位を使って、物質の量を表します。

  • モルとは、ある物質に含まれる粒子の数を表す単位です。
  • 1モルの物質の中には、**アボガドロ数(約6.02×10²³個)**の粒子が含まれています。

例えば、1モルの炭素原子には、約6.02×10²³個の炭素原子が含まれているということです。

2.2 化学反応式と物質量

化学反応式には、反応に関わる物質の量的関係が示されています。化学反応式の係数は、物質量(モル)の比を表しています。

例えば、水素と酸素が反応して水が生成される反応

2H₂ + O₂ → 2H₂O

この式は、2モルの水素と1モルの酸素が反応して、2モルの水が生成されることを意味します。

2.3 気体の状態方程式

気体の状態は、圧力(P)体積(V)絶対温度(T)、**物質量(n)**の4つの変数で表されます。これらの変数の関係は、理想気体の状態方程式で表されます。

PV = nRT
  • P: 圧力 [Pa]
  • V: 体積 [m³]
  • n: 物質量 [mol]
  • R: 気体定数 (約8.31 J/(mol・K))
  • T: 絶対温度 [K]

この式は、一定量の気体について、圧力、体積、温度の間に成り立つ関係を示しています。

例題

標準状態(0℃、1.01×10⁵Pa)において、22.4 Lの体積を占める気体の物質量を求めなさい。

解答 状態方程式に値を代入すると、

1.01×10⁵ Pa × 22.4 × 10⁻³ m³ = n × 8.31 J/(mol・K) × 273 K

n ≈ 1 mol よって、22.4 Lの気体の物質量は約1 molとなります。

まとめ

  • モルは、物質の量を表す単位で、アボガドロ数が重要。
  • 化学反応式は、物質量の比を表す。
  • 気体の状態方程式は、気体の状態を記述する式。

練習問題

  1. 32 gの酸素O₂は何モルか。
  2. 標準状態で、2 molの窒素N₂は、何Lの体積を占めるか。
  3. メタンCH₄が2 mol燃焼するとき、生成する二酸化炭素CO₂は何モルか。

次の章では、溶液の性質や化学平衡について学んでいきます。

ポイント

  • モル計算は、化学反応式と状態方程式を組み合わせることで、様々な問題を解くことができます。
  • モル濃度、質量パーセント濃度など、溶液の濃度を表す方法も重要です。

第3章 溶液

3.1 溶解

ある物質が別の物質に均一に混ざり合う現象を溶解と言います。この時、溶かされる物質を溶質、溶かす物質を溶媒と言います。最も身近な溶媒は水です。水に食塩を溶かすと、食塩水という溶液ができます。

溶解には、飽和不飽和の2つの状態があります。

  • 飽和溶液: ある温度で、ある量の溶媒に溶けきった状態の溶液。これ以上溶質を溶かすことができません。
  • 不飽和溶液: 飽和状態よりも溶質が少なく、まだ溶質を溶かすことができる状態の溶液。

溶解度は、温度によって変化します。一般的に、温度が高いほど多くの物質を溶かすことができます。

3.2 濃度

溶液の濃さは、溶液中に溶けている溶質の量を表します。濃度の表し方として、質量パーセント濃度モル濃度などがよく用いられます。

  • 質量パーセント濃度: 溶液100gの中に溶けている溶質の質量を百分率で表したもの。 質量パーセント濃度(%) = (溶質の質量/溶液の質量) × 100
  • モル濃度: 1Lの溶液中に溶けている溶質の物質量(mol)で表したもの。 モル濃度(mol/L) = 溶質の物質量(mol) / 溶液の体積(L)

3.3 溶液の性質

溶液は、純粋な溶媒とは異なる性質を示します。

  • 蒸気圧降下: 溶液の蒸気圧は、純粋な溶媒の蒸気圧よりも低くなる。
  • 沸点上昇: 溶液の沸点は、純粋な溶媒の沸点よりも高くなる。
  • 凝固点降下: 溶液の凝固点は、純粋な溶媒の凝固点よりも低くなる。
  • 浸透圧: 半透膜を隔てて濃度の異なる2つの溶液があると、濃度の低い方から高い方へ溶媒が移動する現象。

これらの性質は、溶液中の溶質の粒子数に比例するため、溶液の濃度を測定する際に利用されます。

まとめ

  • 溶液は、溶質と溶媒が均一に混ざり合った状態。
  • 溶解度、濃度、蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下、浸透圧などが溶液の重要な性質。
  • モル濃度は、化学反応式との関連で重要な概念。

練習問題

  1. 50gの食塩を水に溶かして500gの食塩水を作った。この食塩水の質量パーセント濃度を求めなさい。
  2. 2 molの塩酸を水に溶かして1Lの塩酸溶液を作った。この塩酸溶液のモル濃度を求めなさい。
  3. 0℃の純粋な水の凝固点は0℃であるが、食塩水の場合は0℃より低くなる。なぜでしょうか。

次の章では、酸と塩基について学んでいきます。

ポイント

  • 溶液の濃度は、実験において非常に重要な概念です。
  • 溶液の性質は、私たちの身の回りで様々な現象に関わっています。

第4章 酸と塩基

4.1 酸・塩基の定義

酸と塩基は、物質の性質を大きく左右する重要な概念です。これらには様々な定義がありますが、ここでは代表的なものを紹介します。

アレニウスの定義

  • 酸: 水に溶かすと水素イオン(H⁺)を放出する物質
  • 塩基: 水に溶かすと水酸化物イオン(OH⁻)を放出する物質

この定義は、水溶液中の酸・塩基を理解する上で基本となります。

ブレンステッド・ローリーの定義

  • 酸: 他の物質にプロトン(H⁺)を与える物質
  • 塩基: 他の物質からプロトン(H⁺)を受け取る物質

この定義は、水溶液だけでなく、非水溶液中の酸・塩基の反応も説明することができます。

4.2 pH

水溶液の酸性度やアルカリ性を表す尺度として、pHが用いられます。pHは、水素イオン濃度[H⁺]の負の常用対数で定義されます。

pH = -log₁₀[H⁺]
  • pHが7より小さいとき、水溶液は酸性
  • pHが7のとき、水溶液は中性
  • pHが7より大きいとき、水溶液はアルカリ性

4.3 中和反応

酸と塩基が反応して、塩と水を生じる反応を中和反応といいます。

酸 + 塩基 → 塩 + 水

中和反応は、酸のH⁺と塩基のOH⁻が結びついて水分子(H₂O)となる反応です。

4.4 強酸・弱酸、強塩基・弱塩基

酸や塩基には、水に溶けると完全に電離するもの(強酸・強塩基)と、一部しか電離しないもの(弱酸・弱塩基)があります。

  • 強酸: 塩酸(HCl)、硫酸(H₂SO₄)、硝酸(HNO₃)など
  • 弱酸: 酢酸(CH₃COOH)、炭酸(H₂CO₃)など
  • 強塩基: 水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)など
  • 弱塩基: アンモニア(NH₃)など

4.5 pH指示薬

溶液のpHを視覚的に判断するために、pH指示薬が用いられます。pH指示薬は、pHによって色が変わる物質です。リトマス紙などがよく知られています。

4.6 中和滴定

未知の濃度の酸または塩基の濃度を、濃度が既知の酸または塩基を用いて求める実験を中和滴定といいます。中和点(酸と塩基が完全に反応する点)で、pH指示薬の色が変化します。

まとめ

  • 酸と塩基は、水素イオンのやり取りによって定義される。
  • pHは、水溶液の酸性度やアルカリ性を表す尺度。
  • 中和反応は、酸と塩基が反応して塩と水を生じる反応。
  • 強酸・弱酸、強塩基・弱塩基は、水への溶解度や電離の度合いが異なる。
  • pH指示薬や中和滴定は、酸や塩基の性質を調べる実験に用いられる。

練習問題

  1. 次の物質は酸か塩基か。
    • 塩酸
    • 水酸化ナトリウム
    • アンモニア
  2. pHが3の溶液とpHが11の溶液を比べると、どちらが酸性か。
  3. 中和反応の化学反応式を3つ挙げなさい。
  4. 強酸と弱酸の違いを説明しなさい。

次の章では、酸化還元反応について学んでいきます。

ポイント

  • 酸と塩基の概念は、化学反応を理解する上で非常に重要です。
  • pHは、環境問題など、様々な分野で利用されています。
  • 中和滴定は、定量分析の基本的な手法です。

第5章 イオン

5.1 イオンの生成

原子や分子は、電子をやり取りすることで、電気的に中性の状態から、正または負の電気を帯びた粒子に変化することがあります。この電気を帯びた粒子をイオンといいます。

  • 陽イオン: 電子を失い、正の電荷を帯びたイオン
  • 陰イオン: 電子を得て、負の電荷を帯びたイオン

イオンの生成例

  • 金属原子のイオン化: 金属原子は、比較的容易に電子を失い、陽イオンになります。 例:Na → Na⁺ + e⁻
  • 非金属原子のイオン化: 非金属原子は、電子を受け取って陰イオンになりやすいです。 例:Cl + e⁻ → Cl⁻
  • 化合物の電離: 一部の化合物(電解質)は、水に溶けると陽イオンと陰イオンに分かれる(電離)します。 例:NaCl → Na⁺ + Cl⁻

5.2 電解質溶液

水に溶けてイオンに電離する物質を電解質といいます。電解質が水に溶けると、その溶液は電気を通すようになります。このような溶液を電解質溶液といいます。

  • 強電解質: 水に溶けるとほぼ完全に電離する物質(例:塩酸、水酸化ナトリウム)
  • 弱電解質: 水に溶けても一部しか電離しない物質(例:酢酸、アンモニア)

5.3 電気伝導度

電解質溶液は、イオンが自由に動き回ることができるため、電気を流すことができます。この性質を電気伝導性といいます。

  • 電気伝導度: 電流が流れやすさの度合い
  • 要因: イオンの種類、イオンの濃度、温度など

電気伝導度の測定

電気伝導度は、電導率セルを用いて測定されます。電導率セルは、2つの電極を一定の距離に配置した装置で、電極間の溶液の抵抗値を測定することで、電気伝導度を求めます。

5.4 電解質溶液の性質

電解質溶液は、非電解質溶液(例えば、砂糖水)とは異なる性質を示します。

  • 蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下: 非電解質溶液よりも大きく現れる。
  • 浸透圧: 非電解質溶液よりも高い。
  • 電気伝導性: 電気を導く。

これらの性質は、溶液中のイオンの数が影響するため、イオンの濃度が高いほど、効果は大きくなります。

5.5 電気分解

電流を流すことによって、電解質溶液中のイオンを移動させ、電極上で化学反応を起こす現象を電気分解といいます。

  • 陰極: 陰イオンが移動し、電子を受け取って還元される電極
  • 陽極: 陽イオンが移動し、電子を失って酸化される電極

電気分解の応用

  • 金属のめっき
  • アルミニウムの製造
  • 塩素の製造

5.6 ファラデーの電気分解の法則

電気分解で生成される物質の量は、流れた電気量に比例することが知られています。これをファラデーの電気分解の法則といいます。

まとめ

  • イオンは、原子や分子が電子を失ったり得たりしてできた電気を帯びた粒子。
  • 電解質は、水に溶けるとイオンに電離する物質。
  • 電解質溶液は、電気伝導性を示す。
  • 電気分解は、電流を用いて化学変化を起こす現象。

練習問題

  1. 次の物質を陽イオンと陰イオンに分けなさい。
    • NaCl
    • CaCl₂
    • H₂SO₄
  2. 強電解質と弱電解質の違いを説明しなさい。
  3. 電気分解の陰極と陽極で起こる反応をそれぞれ説明しなさい。

次の章では、酸化還元反応についてさらに詳しく学んでいきます。

ポイント

  • イオンの概念は、化学反応を理解する上で非常に重要です。
  • 電解質溶液は、私たちの身の回りで様々な場面で利用されています。
  • 電気分解は、工業的に重要なプロセスです。

第1章 有機化合物

1.1 炭素の結合

有機化合物の骨格を形作る炭素原子は、4つの電子を共有して4つの結合を作ることができます。この結合は、単結合、二重結合、三重結合の3種類があり、結合の種類によって分子の形や性質が大きく変わります。

  • 単結合: 炭素原子同士が1対の電子を共有する結合。回転が可能で、分子に柔軟性を与える。
  • 二重結合: 炭素原子同士が2対の電子を共有する結合。回転が制限され、分子に剛性を与える。
  • 三重結合: 炭素原子同士が3対の電子を共有する結合。非常に強い結合で、直線状の構造となる。

1.2 脂肪族化合物

炭素原子が鎖状または環状に連なっており、芳香族性を示さない化合物を脂肪族化合物といいます。

  • 飽和炭化水素: 炭素原子間に単結合のみを持つ化合物。メタン、エタンなど。
  • 不飽和炭化水素: 炭素原子間に二重結合または三重結合を持つ化合物。エチレン、アセチレンなど。

官能基

脂肪族化合物に様々な性質を与える原子団を官能基といいます。アルコールのヒドロキシ基(-OH)、カルボン酸のカルボキシル基(-COOH)などが代表的な官能基です。

1.3 芳香族化合物

ベンゼン環と呼ばれる六員環構造を持つ化合物を芳香族化合物といいます。ベンゼン環は、π電子が環状に広がっており、高い安定性を示します。

  • ベンゼン: 芳香族化合物の代表的な化合物。
  • 芳香族化合物: ベンゼン環を一つ以上持つ化合物。

1.4 高分子化合物

分子量が非常に大きい化合物で、多くの繰り返し単位から構成されています。

  • 天然高分子: 天然に存在する高分子。タンパク質、デンプン、セルロースなど。
  • 合成高分子: 人工的に合成された高分子。ポリエチレン、ポリエステルなど。

高分子の合成

  • 重合: 低分子化合物(モノマー)を繰り返し結合させて高分子を作る反応。

1.5 有機化合物の異性体

分子式は同じでも、構造が異なる化合物を異性体といいます。

  • 構造異性体: 分子内の原子の結合の順序が異なる異性体。
  • 立体異性体: 分子内の原子の空間的な配置が異なる異性体。

1.6 有機化合物の命名法

有機化合物には、国際純正および応用化学連合(IUPAC)によって定められた命名法があります。

ポイント

  • 有機化合物の構造は、炭素骨格と官能基によって決まる。
  • 芳香族化合物は、ベンゼン環を持つ化合物。
  • 高分子化合物は、多くの繰り返し単位からなる。
  • 異性体は、分子式は同じでも構造が異なる化合物。

練習問題

  1. メタン、エタン、エチレンの構造式を書きなさい。
  2. アルコールの官能基の名前と構造式を書きなさい。
  3. ベンゼンの構造式を書きなさい。
  4. ポリエチレンの構造を説明しなさい。
  5. 構造異性体と立体異性体の違いを説明しなさい。